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【Economy Journal vol.03】
デザイナーこそマネジメントを
TWOTONE代表・アートディレクター茂出木龍太さん

CATEGORY : JOURNAL

Economy Journal、今回はデザイン事務所「TWOTONE」の代表・茂出木龍太さんに、「デザイナーとマネジメントの関係」についてお聞きしました。デザイン業のほか、スタッフのマネジメントをしている茂出木さん。自身の経験から得たマネジメント方法、そしてマネジメントとクリエイションの関係性とは?

マネジメントがクリエイションを支える、という考え方ー

 

翠川 茂出木さんとはDEPAAATというサイトをつくっていただくことになったのが出会いなのですが、今回なぜこの対談にデザインを生業とする茂出木さんにご登場いただいたいかというと、クリエイティブ・ものづくり界隈の人たちってマネジメントというものはそれが得意な人がやっているものだと思っているんですよ。でも茂出木さんは基本的にはデザイナー/アートディレクターですよね。デザイン会社から独立して徐々に規模が大きくなってきた、という流れの中で、とてもいいチームづくりをされてますし、さまざまな仕事も手がけていらっしゃいますが、人を雇ったりマネジメントするのも初めての中、本業とマネジメントを実行できているのはなぜなんでしょうか?

茂出木さん 僕が経営やスタッフのマネジメントをしているのは、自分が自信を持って「いい」と思えるものをつくるためにはこれが必要だった、必要に駆られて、というところです。僕たちがつくっているWEBサイトやアプリというものは、ページ数やパーツなどの量も多いので、ひとりで隅々まで確認してつくりあげる、ということが難しい仕事量なんですね。その上、参加しているメンバーの気持ちがそろっていないとできないんです。気持ちが通っていればある程度任せられる領域も増えます。経営に関しても、何かものをつくるにあたって必要な新しい機材をそろえられる蓄えをしておきたいという気持ちもあります。当然いいものをつくりたいですし、そのための準備をきちんとしていないとそれは良くも悪くも結果が自分に返ってくるんです。

翠川 先の先を考えて、であると。本業のデザイン以外にもマネジメントせざるを得ない状況になってきて、その経緯の中でつかんできた自分なりのマネジメントの考え方というのはありますか?マネジメントってやっぱり難しいとか面倒くさいっていうイメージを持つ人が多い気がしていて。

茂出木さん 僕もマネジメントが好きだとか得意というわけではないんですよ。だからマネジメントと考えずに、「自分のクリエイションを支えるもの」と位置づけています。自分の創作活動時間、人を育てる時間、経理の時間などを全部並列で見ると、絶対全部一人ではできない。だからスタッフには、自分の仕事を手伝ってもらっているという認識。手伝ってもらうことで、給料が発生していると考えています。この感覚は経験してみないとわからないこともあります。やってみて気がついたことを実行しているまでですね。

ものづくりは一人ではできない、という認識ー

 

翠川 ものづくりに限らず、仕事というのは一人でできることに限界がありますよね。そこに気がつくということがマネジメントする上で大切。つくり手の人は人と接する機会が圧倒的に少ないから、一人でやっていた状態からいきなり人を採用するのもなかなか難しいと思います。人の採用も評価も面談もしたことがない状況で、面接時に何を質問したらいいのかもわからない。履歴書のどこを見ていいかもわからない。実際そういう人が多いので、代わりにブランドの人事採用に立ち会っていたこともあります。特にデザイン業界だとセンスがいい子を採用したいとかあるじゃないですか。茂出木さんのチームを見ていると、おそらくそういう採用はしていないですよね。

茂出木さん 採用する上で大切なのは「人」なんですよね。例えばデザインがすごくできるわけでもないし、企画を細かく詰めていくこともそんなに得意でもない人でも採用しました。その彼はUXという設計に近い部分を担当しているのですが、つくってきたものをきちんと説明してディスカッションしながら精度をあげていくことにものすごく力を発揮しているんです。ディスカッションの中で、相手の意見も素直に受け止めて設計に反映してみたりと、柔軟さと当事者意識がすごくあるんです。この意識があると、結果、不得意だった部分も鍛えられていくと思います。

翠川 知らん振りしない、当事者意識が持てるということはすごく大事ですよね。それは誰もが意識すれば持てるというものでもないですし、責任感があるということですもんね。採用基準は決めているんですか?

茂出木さん つくることと人が好きだったらいいかなと思っています。僕は大学で教えているのですが、僕の授業を受け、僕のやっていることに興味がある子がアルバイトに来てそのまま社員になるというケースが多いです。もちろん、普通に応募してきた方の採用もしています。もちろん作品は見ますが。まずは一緒にやってみることが大事かなと思っているので、アルバイト期間を設けていますね。大変な状況になったときにどうなるかが見たいんですよね、こちらも常時サポートできるわけではないので。

一対一の会話を大切にするー

 

 翠川 TWOTONEは設立してから何年目ですか?

茂出木さん 9年目です。自分が社長をやるなんて思ってもいなかったし10人以上の規模も想像していなかったです。ツートンを始めて半年くらいで一人雇ったアルバイトの子が最初の社員になりました。その後人数が増えていって今は全部で15人ぐらいですね。

翠川 茂出木さんは前職ではどんな役職を?また、どのような経験をされたのでしょうか?

茂出木さん 肩書きはアートディレクターとマネージャーでしたね。アートディレクターとしてデザイナーたちを見る役割ではありました。レビューは全部社長。それはすごくいいなと思っていましたね。80人くらいいる社員全員と面談の時間をつくるというのは並大抵のことではないですよね。僕はそれがすごくうれしかったから今自分もスタッフとの面談をやっているんです。

翠川 まずは自分が体験して良かったことしかできないですもんね。面談では具体的には何を話すんでしょうか?

茂出木さん 面談を年に3回するんですよ。取締役と僕と3人で90分ぐらい。直近数ヶ月振り返って、いろんなプロジェクトの良かったこと悪かったこととか。プロジェクト進行中は伝え切れなかったことを話したりしていますね。人数も少ない中での会話なので、みんな素直に話してくれます。うちは新入社員で入ってくるケースが多いのですが、それから仕事をして成長して30歳ぐらいになると、悩みが少し重くなったりわがままになったりしてくるんですよ。真剣に考えているからだと思うのですが、なかなか折り合いがつかないこともある。「じゃあもう一回面談するか」と、なるべくわかりあえるまで話をするようにしています。

翠川 スタッフとの距離の取り方で気をつけていることはありますか?

茂出木さん 「集団と個」というバランスをいつも気にしているので、「社員のみんなへ」というメッセージはしないようにしていますね。個人面談もその一環なのですが、一対一でのやりとりをするように心がけています。ただどうしても連絡事項などで一斉に聞いて、というケースももちろんあるのですが、それが響かないというのは前提にあるのでそこにはあまり熱量は込めない。理解できていなさそうな人には個別に伝えに行きます。手間なようですが、その方が早いと感じてます。

 

いいものをつくるための理想の環境をつくるマネジメントー

翠川 私はこれまでのマネジメント歴が長すぎて、自分の会社にはマネジメントしなきゃいけないような人は入れない、という極論に達したので、中途採用しか今は考えてないので、若い子の採用事情から離れてしまって興味があるんですが笑、茂出木さんは新卒採用されてますよね。新卒採用というのはマネジメントが絶対必要。すごく手間だと思うのですが、なぜそうされてますか?

茂出木さん 確かに時間は使うのですが、たいへんだと思ったことはないんです。若い子向けのマネジメントって教育に近いものだと思うのですが、吸収してくれるならやるよっていう感じですね。前回言ったことをもう言わなくてすむようになっていれば。

翠川 響かない子ももちろんいますよね?

茂出木さん もちろんいますね。でもそれは仕事を見ればわかります、あがってきたものがいかに考えられたものかどうかで。何にも面白くないなこれ、みたいなものがあがってきたりして。デザインはトレンドがあるからわかりやすいんですよね。ひゅひゅっとなんとなくやってしまいデザインっぽいだけでクライアントの要件に合致していない。それを指摘してどう修正されてくるかを見ます。指摘するときの言い方もいろいろで、「これ全然だめ」って言ったり「これは及第点だから、もうひとつ好きにつくってごらん」と言う場合もあります。

翠川 茂出木さんはきちんと一人ひとり見てあげていますよね。そうやってきちんと受け止めてもらった経験は、当人にとってはものすごく大切だと思います。

茂出木さん きちんとお互いを見て会話していくということは、例えばクライアントとのやり取りに応用して考えても、預かった宿題やオーダーを相手の何倍にも理解して広げていく、ということにつながると思うんです。いつしか若い子たちが40代くらいになって社会の中心になっていったとき、世の中良くなるんじゃないかなあと。それに、TWOTONEという集団のうちの一人、という意識で仕事をしていると、何か問題が起きたときに「会社が責任を取ってくれるはず」という気持ちで対応するから普段の会話では絶対出ないようなやり取りをクライアントとし始めるんですよね。「私は会社の窓口として仕事をしています」みたいなモードに入って心無いやりとりになる。これは絶対ダメで。そういうときこそ日々のコミュニケーションや人柄が大事になってきます。

翠川 やっぱり人が大事ですね。いいものをつくる、アウトプットの精度を上げていくためにマネジメントもしっかりやるってすごくいい話だなあ。

茂出木さん お金がなくなったらゲームオーバーだし、人がいないと完成しない。それらが整って初めてクリエイションに集中できるわけで。土がないと器がつくれないのと同じですよね。クリエイションに集中できるように周囲の課題解決をしているっていうことです。その環境の中で、自分がつくったものをベースにみんながイマジネーションを膨らませてもっとこうできるよ、とかそれぞれが自由にやっているんだけど、意識は近いところにある、という状態がいちばん理想のかたちです。

翠川 その「クリエイションのために必要」ということに気がついていない人、わからないからやらなくていいと思っている人が多いと思います。マネジメントって上に立つ立場になると自らやらないといけなくなるものだと思いますが、始めたら終わりがないし、達成感もない、何が正解かもわからない。それでも、マネジメントはいいものをつくるためには不可欠な要素である、と。基盤としてのマネジメントだよと広めたいです。

PROFILE

茂出木 龍太【アートディレクター / 株式会社ツートン 代表取締役】

1976年東京都生まれ。日本大学藝術学部デザイン学科卒業。
Business Architects Inc.などのデザイン会社を経て、2010年5月、デザインスタジオ TWOTONE INC.を設立。
国内大手企業のブランドサイト、プロモーションサイト、アプリケーションなどのオンスクリーンメディアのアートディレクションや、映像の企画演出を手がける。
代表作は、Honda Connecting Lifelines、 Tabio Slide Show、郵便年賀.jp など。
CANNES LIONS Titanium Lion、TIAA グランプリ、D&AD Yellow Pencil、グッドデザイン賞インタラクティブデザイン賞、文化庁メディア芸術祭優秀賞など。
日本大学藝術学部非常勤講師。

http://www.twotone.jp/

Text 佐藤 暁子

Photo 岸本 咲子 

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