Special Columnでは、毎回代表の翠川と関わりのある方をゲストにお呼びして、対談をお届けします。今回は、SAC about cookies代表・桜林直子さんです。桜林さんはクッキー屋を経営する傍ら、WEBサービス『note』やtwitterなどで自分の考えを発信されています。
特に『世界は「夢組」と「叶え組」でできている』(http://sac-about-cookies.com/)の記事は、たくさんのシェアを獲得し、多くの人の賛同と共感を得ました。やりたいことがある人を「夢組」、やりたいことはないが、夢組を応援できる人を「叶え組」と呼び、双方がどう協力しあっていけるかをまとめた内容です。
クリエイターは夢組であることが多いが、仕事を大きくしていくうえで叶え組と協力していかなくてはいけません。夢組は叶え組を、叶え組は夢組と、どうお互いを理解し関わっていけば良いのか?その秘訣を、旧知の仲である桜林さんにお聞きしました。
夢組と叶え組の違いって?
翠川 わたしが多くのブランドのデザイナーと仕事をしてきて思ったのは、デザイナーは、自分が夢組の場合が多いってこと。自分のやりたいことが明確にあって、ブランドをつくったり、デザイナーになったから。だから叶え組の存在を知らないんだよね。ブランドの拡大時に人を採用して、初めて「自分のやりたいことがない」人に出会うことになる。夢組には叶え組の「やりたいことがない」理由が理解できない。だから、各スタッフのゴール設定がわからないし、そもそも、どうして自分のところで働いているのかも理解してあげられなくなってしまう。
だから夢組の人に、叶え組の存在を知ってもらいたいと思って。お互いを理解しあって、仕事を一緒にやっていくことがその会社の成長のために必要不可欠だから。どうしたら彼らが一緒に働けるのか、お互いの持ち味を活かしていけるのか。そのヒントになる話を今日はできたらいいな。
桜林さん そもそも、夢組と叶え組の違いってわかりづらい。夢組は、未来を見ていて「5年後ぐらいに、こうなっていたらいいな」っていう希望を持つことができるような人。でも、その希望を叶える方法まではわからなかったり、得意じゃないことが多いかな。だから夢組の人は、自分の希望を叶えるために、自分だけではできないことがあるってことを認識する必要があると思うんだ。自分ひとりの力では、夢は叶えられない。それを認めてはじめて、夢組は叶え組を尊重するし、心から感謝できるようになる。
一方、叶え組とは夢組の動機や希望に賛同している人のこと。実はすべての人が、夢組と叶え組のどちらかに分類されるわけじゃないの。お金のためだけに、しょうがないからそこで働いている人は、叶え組とは呼ばない。叶え組は自分の夢がなくても、誰かの夢に共感して、その人の役に立ちたくてそばにいく。誰かの夢を支えられるって、実はひとつの能力なの。だから、これがわたしの能力だって自分で認められたら、もっと活躍しやすくなるんだと思う。
翠川 叶え組って言葉は、そういう意味でもすごくいいと思う。誰かの脇役ってだけならネガティブな感じもするけど、「叶え組」だと目標を達成するための、お手伝いができるってニュアンスもあるから。その人を「叶え組」だとこちらが認識してあげると、叶え組の人も「気づいてくれたんだ」って、もっと期待に応えてくれる。そのためにも叶え組の存在を、多くの人に知って欲しいな。
自分を主語にすることの大切さー
桜林さん ものづくりのセンスや才能って、やりたいから備わるものじゃないでしょう?特別な能力だと思う。しかも自分がつくり出すものがブランドの価値を左右するわけだから、当然、クリエイターはものづくりが一番大切な仕事だと感じるようになる。そうすると、どうしてもそれ以外の仕事を雑用だって感じてしまう。
翠川 それは本当にそう。例えば、「うちのジュエリーが好きで入ってきたのかもしれないのに、経理なんてつまらないことをさせて申し訳ない」とか、「デザインしたいかもしれないのに、営業させて悪いな」とか、思いがちな傾向にある。
桜林さん その場合、「~かもしれないのに」が問題かな。夢組が勝手に判断しちゃって、本当にそうなのか確認していない。
翠川 実際に、大好きなデザイナーのことを支えられるなら何でもやりたいと思っている人もいるし、デザイナーがつくっているものを営業することが喜びになっている人もいるのにね。お互いに、うまく聞き出せないし、言い出せない場合もあるんだと思う。
桜林さん 修行と仕事の境界線が曖昧になってしまう場合もあるよね。勉強として、文句を言わないで与えられた役割をこなすだけの修行みたいな仕事もある。でも、ちゃんとどうしたいのか意見を言えたり、反映してくれる仕事もあって。そのどちらなのか、わからなくなることってよくある。
わたしは自分の向き不向きを知るために、スタッフには最初は何でもやってみてほしいって考えかな。でも、そうするとだんだん仕事について不満を口にするスタッフが出てくる。しかも、自分の業務をこうしたい、というのではなくて他人への悪口だったり。例えば、社長のダメなところはいくらでも言えるんだけど、自分が何をしたいのかは言えない。
だから、わたしは自分がどうしたいのか言葉にしていいってスタッフに伝えてきたかな。月1回の雑談でも、常にあなたはどうしたい?っていうことだけを聞いてるの。「夫が今こういう状況で休みたい」とかプライベートなことでも、自分がどうしたいのかをとにかく言ってもらう。
翠川 今後の夢とか目標があるかどうかはさておき、今どうしたいのかを言葉にしてもらうんだね。
桜林さん 主語を自分にして話す訓練なのかもしれない。愚痴や不満をいう人は、会社の変えたほうがいい部分や嫌いな人のことは話せるけど、自分がどうしたいのかは話せないことが多いから。そういう人には、自分がどうしたいのかを書いて持ってきてって頼むようにしてる。
翠川 そういう「会社のここ変えたほうがいいですよ」とかいう人の賢さに、やり込められちゃうマネージャー陣も少なくないよね。
桜林さん それこそ、その土俵には乗らない感じにしたいかな。乗ってしまうと、否定しなくちゃいけないでしょう。「それはこういう理由で変えられない」とか、「そういう意図ではやってないよ」とか。わたしは相手の意見の否定をしたくない。だから、「不満のままにしないで、自分はどうしたいのかに言い換えて」って伝えるの。
翠川 そうすると、「わたしは別にいいです」って答える人もいるでしょう?
桜林さん 本当にそれでパフォーマンスが下がってしまうようなら、その人が不満を持っているものと物理的に距離を離すことも必要だけど……やっぱり自覚の問題かな。不満を持ちやすい人は、どうしても自分以外の何かを原因に仕立ててしまう。だから、不満を自分がどうしたいのかということに言い換える訓練は、自覚を持つことにもつながっていく。
マネージメントの上でも、自分を主語にして話すことは大切。自分を主語にしてみんなで話し合ったとき、「今は人がいないから、この仕事をやってほしい」とか、「この仕事はできるようになったほうが、今後のためになる。あと半年は続けてみない?」とか、妥協案を出しやすくなるよ。
だから、話し合いの主語を自分にすることはマネージメントの一番の基本だと思う。
感情をどうあつかうべきかー
翠川 関わっているブランドから、スタッフの評価シートをつくってほしいと頼まれたことがある。スタッフの評価基準って難しいよね。そういうときに、自分を主語にした穴埋めシートをつくって面談するだけでも、ずいぶんやりやすくなりそう。
桜林さん 評価が価値を持つ会社ならそれでもいいよね。ただ評価って、評価する側の価値感で判断されるものだから、それでは測れない部分もあるかな。
翠川 でも評価は避けて通れないよね。報酬と関係してるから。
桜林さん その場合、評価シートと自分がやりたいことそのものは別々に考えてほしい。評価シートはできることが増えたかどうかだけ確認するもの。自分を主語にすることは、評価シートの手前の段階でやるものかな。自分のやりたいことや嫌なこと、得意なこと、楽しいこととか、感情にまつわる内容は評価と分けたほうがいい。
翠川 事前に自分の感情を知ることで、その人の軸になっていれば、マネージャー陣も安心できそう。その人が意思表明したことと、実際に任せている仕事が重なっているか。スタッフ本人の希望と同じ流れの仕事だったら、こちらがお願いしても、やらせているんじゃなくて本人がやりたいことに沿っているんだって気持ちになれる。
桜林さん 自分の感情を言うためのツールは、いくつか用意してもいいのかもしれないね。わたしの場合は、何人かのスタッフとおしゃべりをするようにしている。もっとやりたい作業や楽しくない作業って人それぞれだから、言葉にできる場をつくってあげる。
翠川 自分が得意ではない作業でも、それが楽しめる人だって分かっているなら、その人に代わってもらうとき、頼む方の気持ちが楽になるね。社員全員でお互いのことを理解して、共有したほうがいいなって思った。
桜林さん あと注意が必要なのは、ものづくりをする人たちが、良いものをつくることだけを仕事の中で大事にしがちなこと。個人としてはそれが一番価値ある仕事なんだけど、チームでは、それだけではないの。だから、チームと自分の目標は変えたほうがいいと思う。
「スタッフが自分のためにいる」って考えちゃうのは、自分の目標のためにチームがあると思っているから。でも、チームで達成する目標を別に持つことができたら、楽になるよ。ものを作る人が、自分もチームの一員であって、特別ではないって思えるようになったら、すごくいいと思う。
翠川 なるほど、夢組はその観点に考えをシフトするの苦手かもしれないな。そういう関係性を作るのも難しいし。
桜林さん だから、「わたしたちはチームです」っていう見せ方は必要かもしれない。スタッフごとに役割をはっきり伝えることは大事。それぞれ別々の役割を持つ、同じチームですって。
翠川 デザイナーは「個人」としてのあり方に加えて、「チーム」としてのあり方を意識する必要があるね。
PROFILE
桜林 直子【SAC about cookies代表】
1978年生まれ 東京都出身。2002年に結婚、出産をし、ほとなく離婚してシングルマザーになる。洋菓子業界で12年の会社員を経て2011年に独立し「SAC about cookies」を開店する。現在は自店の運営のほか、店舗や企業のアドバイザーなども行なっている。noteにて「シングルマザーのクッキー屋の話」などを投稿している。娘のあーちん(現在15歳)は、2012年(9歳)より「ほぼ日刊イトイ新聞」てマンガ、イラストで連載中。
Text 新井作文店
Edit 遠山 怜
Photo 岸本 咲子