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【Economy Journal vol.02】
ファッションブランドを経営する
Jensデザイナー・武藤亨さん

CATEGORY : JOURNAL

デザイナーとして独立しても、経営がうまくできずに続けられない……。そのために商品が顧客に継続して提供できないなど、デザインや製作以外のところでこれまでのいい流れが止まってしまうというブランドも少なくありません。
アパレル企業からファッションデザイナーとして独立し、「Jens」を立ち上げた武藤亨さん。立ち上げから5年経ち、自分の経験だけでは賄い切れない部分をKATALOKoooに託すことに。
ただ通信販売を託すのではなく、ブランドの新しい展開をKATALOKoooと一緒につくることを選んだ経緯について伺いました。

KATALOKoooを使って試みる新しい展開ー


翠川 私はもともと渋谷のaiiimaで展示会をしているのを知っていて、すごく企画もしっかりしているし服のデザインも好きだなと思って見ていました。

武藤さん 僕はaiiimaの方から話を聞いていて、ちょうどそこでKATALOKoooのカンファレンスをされているのを見かけて、そんなおしゃれなウェブサービスがあるのか、と認識しました。今までは卸しなどオーダーを受けたものをつくるという、在庫を持たないやり方でしたが、それだけではやはり行き詰るので通信販売は通らなければいけない道。それを具体的に考え始めたときに連絡したんです。
それまではZOZOTOWNかカラーミーか、無料で始められるSTORESか。それぐらいしか選択肢がなくて、無料はリスクがないんですが、趣味の延長のようなすごく個人的なものに見えてしまう印象が僕の中にあって。KATALOKoooはまさに自分がこれだったら、と思うことをやっていたんです。きちんとイメージも伝えられて見栄えも整っていて、後方支援までしてくれるという。それがすごくしっくりきたんです。

翠川 私は自分が好きなブランドだったということもあり、連絡をいただいたときはすごくうれしかったのですが、どんなタイミングで利用することを決められたのですか?

武藤さん ブランドを始めて数年経ったころ、個人発注が2倍に増えたシーズンがあって。ちょうどこれまでやっていなかった委託販売を始めたこともあり次の段階に進むのは今かな、と感じたんです。

翠川 在庫管理や更新の頻度、ビジュアルの見せ方、さらに在庫を積んでオンラインでどんどん売っていくぞっていう方向ではなく、今はコンテポラリードレスのラインをメインでやろうということになっていますね。

武藤さん やっぱり実際やってみて、いいところ悪いところが見えてきて、さらに新しいラインも始めたので、そのブランドのウェブでの表現にも注力し始めました。新しいラインというのは、TPOやシーズンに関わらず使える商品です。

翠川 洋服ってロットのことを考えながら半年ごとに在庫をつくり続けることが大変なんですよね。あまったらセールにするのか、でもセールにはしたくない、とか。オンラインの強みは、そのあたりをコントロールしやすいことですよね。同様に、買う側もじっくり検討しながら検討できることがオンラインの良いところです。

武藤さん そうですね。こういう細かいことを相談しながら構築していけるところが心強いです。翠川さんご自身がものに興味があるし好きだから、そういう話ができるのも相談しやすい理由のひとつです。

翠川 お互いの関係性がないとそこまではっきりと言えないのですが、こちらもいろいろ実際の話を聞かせてもらえるという利点もあります。きめ細やかにやっていかないと時代の変化についていけないと思います。
私はすべてのブランドが自社のウェブショップをインフラとして持っているべきだと思っています。ウェブは購入窓口だけではなく、広く潜在的な顧客と接点を持てる場所です。
ウェブサービスでブランドがどう顧客との関係性を作っていくか、それで得た知識を、他のブランドにも還元したいと思っています。

 

「デザイン」と「売ること」をつなげて考えるー

武藤さん 前職では、商品企画として入って5年やって最後の1年半はプレスの部署の統括をしていました。MDとかVMDがいない会社だったので、商品企画の担当がそこもまかなっていたんです。だからその人によって店も売り上げも変わってくるという。でも年に5回ぐらいは企画をしなければならないのでほかのことを真剣に考える時間と余裕がない。僕は美術館行ったりするのも好きだしいろいろリサーチするのも得意だから、彼らのサポートとして店舗設計のアイデア出しやカタログづくりのベースを考えたりと、いろいろな部署に入り込んでそれぞれに合った提案をする役割をしていました。

翠川 洋服のデザインだけではなく、洋服をつくって売る周辺のことを一通りされてきているんですね。

武藤さん はい。それでほかの作家さんたちとのコラボレーションをするイベントの企画をしてみたらとても社内からも好評だったんです。それが何回も続くようになって、ほかの分野の人と仕事を通してきちんとつながることが増えました。ただ、誰かをフックアップして仕事をオファーするときに、予算がそこまでなかったのでギャランティの提示だけではオファーしにくく、企画もその人がきちんと立っている、かつ会社の意向にいも沿っていて相乗効果で良くなっていくようなものを考えなければなりませんでした。「相手を立てて相手を引き伸ばしながら自分たちも立つ」というような関係性を考えるようになったんです。少し引いた目線から考えるようになったというか。

翠川 プレスやイベント企画、作家との交渉など、やっぱり商品企画のことをわかっているからこそできる仕事だったりしますよね。そこだけ外部の人にお願いするとだいたい歪みが生まれますよね。

武藤さん そうですね、やっぱりリスクを背負って自分の商品を流通させている人とさせていない人では、同じデザイナーでも立ち上げのハードルが違いますよね。

翠川 私はものは作らないけれど、現場の店長出身なのでマネージメントとか売ることをすごくやっていました。一通り経験した後、アルバイトでいいから広報の部署に移動したいと申し出たんです。それで広報のサポートをしながら販促企画をやっていたんですが、そこで得た経験から、一番重要なことは販促だと改めて感じました。
PRの企画をつくるときにただ華々しいことをやると現場の敵になってしまうんです。プロモーションとして成功するのと売り上げを上げるということは全然違うことですから。売るためにしなければいけないこと、例えば店舗の社員教育やナレッジの共有、品出しの方法などそういうことをデザイナーの人たちは本当に知らなくて、「デザイン」と「売る」ことがプツッと切れてしまっているんですよね。ブランドを始めて売れてきたらPR入れるか、という流れになることが多いですが、それだと本来のPRの目的がずれがちです。

武藤さん そうかもしれませんね。前職の会社は、社員も数百人、年商もしっかり作る会社だったのですが、企画・営業が一気通貫でPRまでプランニングしていました。ものをつくって営業し、きちんと接客すれば売れる、という考えで大きくなっていった背景もあったので、商品企画がPR的なコンテンツを考えることはごく当たり前のことでした。

翠川 確実な客層に響かせたいということ?

武藤さん 短期的な利益よりも、長期的なブランドの人格を作ることに労力と資金をかけていました。それがすごく勉強になりましたね。

翠川 SNSやオンラインショッピングが盛んになってきた今の時代にとても大切なことですよね。やっぱり買う側の人の意識も変わってきていて、今は自分である程度までは調べることができる。プロモーションで「あの人がいいって言っていた」以前に、機能がこうで、ほかと何が違って、少し高いけどこのポイントがいいとか、または同じなのにこっちのほうが高いとか、そういうことが調べられて自分なりの結論が出せてしまう。

武藤さん ファッションはまだ紙媒体が強いと思いますし、メディアに影響されているところが大きいですがでもその一方で個人を信用している人も増えているなと。instagramが出てきたときに、新聞や雑誌ではない情報のほうがむしろ信頼できる、「この人が言っているからいいものなんだ」というような価値観が出てきましたよね。

翠川 そうそう。調べるとはいえ一からのリサーチは面倒だから、例えば「この店、このバイヤーが選んでいるものは間違いない」だったものが今個人発信ができるようになって「このママが言っていることは信じられるからその一式を買う」という。一般人でもリサーチ上手な人がインフルエンサーになっていますよね。その中でも、何かいいものなのか独自の審美眼を持っている人がいる。
安ければいいということではなくて。ファストファッションではないものにお金を使おうと思っている人はきちんと見ている、このブランドだったらお金を出してもいいという人がいる、そういうことがわかった上で独立しているということですね。それはすごい強みですね。


ブランドイメージをどう育てていくかー

武藤さん 自分がきちんと「武藤です」というブランドにならないとだめなんです。例えば2万円ぐらいのシャツをつくっているブランドなんてたくさんあるじゃないですか。その中で何でお客さんが判断するのかといえばやっぱり「ブランド」だと思ったんです。ブランドがどういう姿勢でやっているのかというところに惹かれて買うのではないか、と。

翠川 例えばパタゴニアとノースフェイスで同じような商品があったときにブランドで決める、というようなことですね。

武藤さん そうですね。だから最初は高いものしか作れないけれど、自分のブランドして押し出していって少数のお客さんをファンにすることから始めました。

翠川 Jensのブランドイメージはどう決めたんですか?

武藤さん 僕は独創性がある強いものをつくるタイプではなくて、枠組みからつくっていくタイプなんです。例えばコートをつくるにしても、「あのコートをつくりたい」がスタートではなくて、このシーズンの全体のイメージがこうだからこういうコート必要だよね、といった風に。

まわりのブランドも意識しました。僕が得意だったスタンダードなラインの服はすでにほかでもたくさんあってそれが流行りにもなっていたので、それをやっても意味がないなと。安心、日常的、上質、着やすい、というキーワードはあふれていたので、僕がつくるものは緊張感が出るものにしよう、と考えました。例えばシャツにしても洗いをかけないでパリッと仕上げて、着るととても女性らしさが出るダーツを入れたり。色気が出たり、少し背筋が伸びるようなものをブランドとしてやっていったら意味があるのではと考えました。
だから「コンテンポラリードレス」というコンセプトをつけて始めているのですが。ドレスなんかも「ここに行くときに着て行きたい」とか。ハイブランドにはそういった商品がありますが、もっと抑えた価格でそういった提案をしているブランドはないのではないか、と思いました。

翠川 かなり客観的にコンセプトも決めたんですね。商品企画がすごくしっかりしているのに落としどころになっている最終的なデザインがほかにはない独特なラインだなと思っています。それは客観的に決めたコンセプトプラス武藤さんの好みでもあるんですか?

武藤さん 僕の根本はかなりマニアックというか、売れる方向ではないと思うのですが商品を作るときは感覚でしかないので。ベースしっかりつくるけれども最終的には感覚がデザインに出るので、そのアンバランス感があるのかもしれないです。


ブランドのマネージメントについてー

武藤さん 僕は爆発したような成功体験がない上、性格も慎重です。だから始めたときは狭くてもいいから強いファンをつくりたかったんです。

翠川 ブランドの経営の話をしていて、ものをつくりたい人はまず「食べていくこと」が目標になってしまっていて、センスや技術があればそれなりになれるんですよね。でもその先を思い描いていないからこのあとどうする?っていうパターンが多いんです。だから売れた後人を雇うこととかを考えていないので、話題になったとしてもずっと売り切れが続いてしまうというような。ものが用意できなければこちらとしても広げてあげられないんです。

武藤さん 僕もビジネス脳もビジネス感覚も全然ありません。いろいろな仕事をしてきましたが、本質的ものづくりがしたいと思ってました。だけど経験としてそれだけじゃ売れないこともわかっている。いいものをつくったからといって売れるわけではない。
僕が空間に興味を持ち始めたのも、お店に商品を置いたときに、どこにどうディスプレイされてどんな曲がかかっているのかによってお客さんの反応が変わってくるからです。商品よりもそれが置かれている環境の方が大事ではないかと思っているくらいです。
ただ商品が販売される環境も考えてしまう分、純粋に服のデザインだけを考えられていないというジレンマもあります。だからパートナーをいかにつくるかがすごく大事だと思います。僕ができることには限りがあるから。

翠川 私はKATALOKoooを起用している方々に、お金の話というよりもマネージメントの話をずっとしているんです。私はものを見るのが好きだしこれまでの経験から、こうすればもっと売れるのに、という提案ができるのですが、それだけではなくやっぱり実際に会ったり一緒にものを見たりしてお互いの価値観や考えを共有する時間も必要です。その関係が築けたら割りと率直な感想を伝えています。最終的にはうちのウェブサービスを使わなくなったとしても良き相談役でいたいという気持ちでやっています。

武藤さん 僕も洋服だけ売っているつもりもありません。KATALOKoooのサービスを利用することで、価値観も変わってきてます。同じ起用者の方々も稼ごうとも思っていないしある程度現実的に見ている人が多いと思います。僕は今一人で全部やっているので、こういうサービスがあるとチームメイトが増えたような感じで、足りない部分を補い合えるような気がします。

翠川 ウェブショップ運用のために人を雇うなら、このサービスを使って経費を抑えてクリエイションのほうにお金を使えることのほうが嬉しいですよね。武藤さんの次の展開も楽しみにしています。



PROFILE

武藤 亨
【Jens デザイナー】

[Jens]を2015年よりスタート。
普段なれ親しんだ素材を最大限に生かし、日常と非日常を行き来する洋服やジュエリーを提案する。インテリアやアートなど空間を演出するものも身につけるものと同様に捉え、アーティストと共に空間的なアプローチの新作発表「プレビュー」を毎シーズン行っている。さらに自身のブランドでの活動にとどまらず、企業やブランドのコンサルティングやブランディングに関わるサポートを行うプランナーとしても活躍する。

http://j-e-n-s.jp/

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Information
武藤亨さんがディレクターを務める
クリエイティブのプラットフォーム「PRIMARY」が3月26日よりスタート



"Primary/プライマリー"は、多分野のクリエイティブな活動を集合させ、ひとつのシーンを形作る受け皿を作り上げます。またそれをアーカイブし、有効活用していくことで新たな仕組みを生み出し循環させることを目的としたファウンデーション=運動体です。

PRIMARY① 
2019年3月26日(火)ー3月31日(日)
11:00-18:00 会期中無休
東京都港区南青山5-6-10 5610番館
Gallery 5610

PRIMARY① はKATALOKoooが提供するキューレーションストアDEPAAATにてご覧頂けます。
https://primary.depaa.at/

Text
佐藤 暁子

Photo 岸本咲子 

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