LOADING...
  1. HOME
  2. FEATURE
  3. 【Special Column vol.01】ブランドのエンゲージメントを高める発信とは。ニューヨーク在住ライター 佐久間裕美子さん

【Special Column vol.01】
ブランドのエンゲージメントを高める発信とは。
ニューヨーク在住ライター 佐久間裕美子さん

CATEGORY : JOURNAL

キュレーションサービス『DEPAAAT』をライフスタイルWEBマガジン『HOUYHNHNM』編集部や佐久間裕美子さんに利用してもらう中で KATALOKoooは、ある特徴に気づきました。それは、キュレーションされた商品ページを閲覧したのち購入にいたる人数が非常に多いことです。そこで、なぜ高い販売率を残せているのか KATALOKooo の翠川裕美が佐久間さんに尋ねました。ブランド性とともに商品を購入してもらう方法を、佐久間さんと考えます。

発信と売れ行きの関係性

翠川 佐久間さんはだいぶ前から発信していて、フォロワーを束ねていますよね?

佐久間さん 束ねている、というか、偶発的に……。

翠川 偶発的に? 集めようとは思っていなかったんですか……?

佐久間さん nifty時代にパソコン通信が登場して、それからMy Spaceができて、mixiができて、という流れの中でmixiで日記を書くようになって、それが少しずつ快感になって2009年頃、Twitterをはじめたの。

Twitterって、誰に向けて書いているのかよくわからないけれど、とりあえず「いいね」や「リツイート」みたいなことはもらえる。たぶん、似たようなことに関心のある人が見てくれるようになったみたいなところがあってね。以前は男性誌の仕事ばかりしていたから、1回、Twitterユーザー解析したら、9割が男性だって出た。

翠川 そういう狙いはなかったんですか?

佐久間さん なかった。だけど、服のことや音楽とかカルチャーも、男性誌に出るようなものが好きだったから、自然にそうなって。そうこうしたあとに、『ヒップな生活革命』って本を書いたじゃない?

そのときまで、本というものにどれだけのお金がかかって、どういう流通を経て、人の手に届くのか、まったく考えたことがなかった。それでも、初めて私が出した本に、反応してくれる人はすごくいて。それも、まったく想像の外。

翠川 そうだったんだ……! 狙ってなかったんですね?

佐久間さん 全然。『POPEYE』とかで普段私の原稿を読んでくれている人たちが買ってくれたらいいかな〜、くらいの感じで。そうしたら、実際に、本屋さんとか、コーヒーやってる人とか、自分が手を動かしている人たちからすごくいろいろ反応があって、徐々に自分のオーディエンスとつながることができた。でも同時に、テレビに出たことが何回かあるんですが、そういうことはあまり効果がないということもわかったり。

翠川 違う層に響いていると、動きませんよね。

佐久間さん 民放を見ている人たちは、全然、私のターゲットじゃないんだな(笑)。たとえば本を有名人にポストしてもらっても、売り上げにはあまり影響がない。たくさんフォロワーがいて、私の本について書いてくれていても、つくコメントは……。

翠川 「こんな良い本を読んで、すてきですね」みたいに、本の内容には興味がない。

佐久間さん そうそうそう。でも共通の価値観を表現している人にポストされるとうわっと売れたりするわけね。ソーシャルキャピタルって、そういうことなのかな、と。

翠川 私もそう思います。

佐久間さん 私は職業ライターでもあるから誰に向かってものを言っていくのかって、意外と難しい問題で、仕事はしたいけれど、どこの媒体で書くべきかっていうのはよく考えるんです。わざわざ叩かれるようなところに出ていくのは嫌だし、かといって、私と価値観を共有している人たちだけにものを言っても、それはそれで意味がない。

政治や社会のことばかりを考えているけれど、ファッションもカルチャーも、みんなが思う以上に政治や社会とつながっていて、そういうことに気がつくきっかけになれたらいいと思っていて。

値付けと箱の重要性

翠川 やっぱり爆発的に拡散することではないんですよね。

佐久間さん うん。今回、KATALOKoooで販売しているSakumag Zineを500部刷るか、1000部刷るか迷ったんですけどそれは、私がこれを作りましたって言って、買ってくれる人が何名いるだろうって思ったときに、だいたい500〜1000人ぐらいで、その人たちがすぐに買ってくれるのであれば、結構、幸せかなと思って。

あと、値付けも悩みましたね。1000円で売ると赤字だけど、お札1枚ぐらいで買ってもらえるようにハードル低くしたいっていう気持ちもあった。ただ、ハードル低くしすぎると文句を言うタイプの人も呼んでしまいそうで。

翠川 慣れたらすぐに言いますよね。

佐久間さん 個人的な思いを表現するための zine だし、私は死ぬ気でつくっているのに、超ジャッジメンタルなコメントをつけられるなんて、想像するだけでさ……。だったら、1500円支払っても欲しいって思ってくれる人を対象にしたほうがいいかなと。赤字になっちゃったら精神的に続けていけないかな、とか、いろいろ考えました。

翠川 赤になったうえに、たった1-2名でも何か言われたら続けていく気になりませんもん。

佐久間さん もう凹む。やりたくなくなりそう。

翠川 それこそ、無料と有料の境目と、価格の1000円と1500円の違いもすごくありますよね。私は note で、有料をはじめてやってみたんですよ。それは保身で。周りを見ていても、すごく影響力がある人たちは、炎上しそうなものを全部有料にすると言ってるのを聞いたことがあって。有料にしておくと、勝手に都合良いところだけ切り取ってシェアしないようにできて、ミスリーディングを防げる。

これは無料と有料の境目なんですけど、小売も値段の境目は割とシビアにあって、すごく売れちゃう価格帯はあるけれど、その価格帯だとブランドの人たちが疲弊しちゃう値段設定というもあります。売れても、特に何も残らないし、変わった顧客が付いてしまったり。

佐久間さん そうなんだよ。疲弊するよね。

翠川 そういうことがあるから、適正に売れる丁度いい価格帯を狙ったり、本当にごく少数の人に理解してもらえるブランドとしてやりたいならすごく高くしたり。コストも全部計算したうえで、ブランドにあった人物像に向けて値付けすることは、すごく重要なポイント。

佐久間さん そうそう。私は毎日書いているコンテンツを有料化したらどうかって言われるんだけど、それはやりたくないんです。無料で読めるけれども、その代わり、私の箱 sakumag.com に来てね、という。そこなんです。クリックひとつだけの問題なんだけれども、ある程度は淘汰されるし。

翠川 でも、佐久間さんはそこに誘導しようって気はそんなにないじゃないですか。

佐久間さん ない(笑)。

翠川 そういうやり方もいいなと思っています。今って、書いたからには必死で拡散じゃないですか。自分の抱えている人をどれだけ増やすかっていうことをみんなやっているから。佐久間さんは……。

佐久間さん 「忘れてたぁー!」って(笑)

翠川 私は毎日見ているから、更新されているのを知っているんですけど、佐久間さんはどこにも書いたことを言っていないことがあります(笑)。

佐久間さん あるある。とにかくシェアとか、そういうことが下手なんです。

翠川 そうですよね。

佐久間さん でも、消えるものではないから、書いたものは置いておけばいいかなと楽観している。

翠川 毎日やっていることに意味があるからやっているわけですもんね。

拡散と浸透の差異

翠川 でも、さきほどおっしゃっていたように、「価値観を共有している人たちにものを言っても、世の中は変えられない」って気持ちはあるから、拡散できたらいいなとも思いますか? というのも、私はいいものなら押し付けてでも試してもらいたい派なんです。自分にはつくる才能がないから、ものをつくる人のことを本当にすごいと思っていて。

ただただ、ものをつくる人たちは無口な人が多いから、「騙されたと思って、使ってみなさい」っていうのをずっとやってきました。店舗での販売しかり、ウェブの企画しかり。元から独り占めする気が全然ないんです。でも、特にものづくりの業界は、各自暮らしが素敵になれば満たされるを目指している業界なので、「いいものはいい!」と言いたい私の仲間はあまりいないわけですよ。

佐久間さんの場合なら、職業ライターということも関係していると思うんです。

佐久間さん いや、共有癖(へき)。

翠川 へき!(笑)

佐久間さん 「みんないいでしょう!」っていう気持ちはもちろんある。でもそれだけではなくて、最終的な究極の目標は、この大量生産社会に少しでも疑問を持ってほしいと思うし、世の中を変える一助にはなりたいと思っていて、もしも変えられるのだとしたら、束にならないと社会は変えられないから。

やっぱりファッション界だけで言っていてもダメだし、他の業界にはすぐ捨てられてしまうようなものは作らないでほしいって思うし、買う人たちには、大量に余った在庫をみんなが焼却している世の中で、簡単に買う前にもう1度ほしいものなのか考えてほしいとか、言いたいことはいっぱいある。

もちろん私も物を売ってる立場ではあるけれど、物も買い物も大好きだから、「環境破壊が大変なので、物を買わないでください」って言っても現実的じゃないのも理解できる。でも立場がもし違ったとしたら「プラスティック買うなよ」という言い方はしたくない。できれば買ってほしくないけど。

アメリカは政府が規制しないのが問題でもある一方で、貧困率の高い地域からプラスティックのボトルを取り上げたら、きれいな水にアクセスできなくなる人が出る。そこに左派のリベラルがやってきて、「もうプラスティックはやめましょう」って言ったところで……。

翠川 死んじゃいますよ。

佐久間さん そう。だから、所得も、家族も、みんなそれぞれ現実が違うし、自分のできることをするしかない。私は肉を食べないし、本当はみんなが肉を食べる量が減ったいいなとは思うけど、原理主義になって止めてもしょうがないから、せめてそこで学んだことを共有したいというか。

翠川 そこだけ切り取られてしまうと、なぜ止めているのか本当のところは伝わらないですからね。すべて知ったうえで判断してほしい。

佐久間さん そう。もしも食肉を育てるためにどれだけの環境破壊が起きているかを知ったら、肉を食べる日を週5日から2、3日に変える人がいるかもしれない。だから、自分と考えの違う人を遠ざけない形で、サブリミナル効果のようにメッセージを伝えたい。私はそう思ってるんです。何もかも一時的なムーブメントで終わってほしくないから。

翠川 すごくわかる。爆発的に拡散すると、消費されて、急にその思想はダサいって変わってしまいますもん。

佐久間さん そうそう。私たちが日頃知っていると思ってることって、どこかから情報を与えられたことで、その情報の裏には多大なるマーケティングとかがあって、そのなかで、市民として消費者として、いかに賢くだまされずに生きるかが重要になってきてると思う。自分自身も日々勉強だし、いろんな人にいろんなことを教わるなかで「へぇー! そうなんだ」って思ったら、一人であっても二人であっても、共有したい。

伝聞と伝達の功罪

佐久間さん 自分が聞いた情報を「そうらしいよ」っていうことを鵜呑みにしちゃって、本当にそうなのかどうかを調べることは、なかなかしない人がほとんどで、情報の受け手としての資質が求められている。デマやフェイクニュースが蔓延している。私自身ですら、信用している人だったりすると、そのままリツイートしてしまいそうになる瞬間はあるし。結局、自分でどれだけ確認するかが問われるんだと思うんです。自分の認識の裏を取る作業というか。

翠川 私は、sakumag.com のエントリーの最後に書かれている、備忘録がすごく好きです。佐久間さんが何かを見たり、誰かと話して感じたことがメモされてますよね。

それって、自分だけで考えたことを書いているようにみんな勘違いしてしまうというか、発信できる人は自分がゼロからコンテンツをつくっていると思われてしまいがちです。いろんな情報と、自分が体験したことが結びついて、毎日ちょっとずつ深まっていくことが重要だけど、みんな、ソースのことはあまり書かないから。

これからは、ただ広げればいい時代じゃなくなると思うんです。マスメディアから分散型に変わっていく「分人型」というか、人にどんどん付いていくし。

佐久間さん これだけ簡単にアクセスできる情報があると、逆にその摂取の仕方が難しくなっていく。結局、私にとっては、ネットの情報よりも自分が信用できる人たちの意見のほうがバリューが高い。自分にとっても課題だから、こうやってるよ、というところも含めて、その葛藤を共有したいんです。。例えば、日本の雑誌に出たい人から日々売り込みがきたりもするわけですよ。

翠川 くるんですね。

佐久間さん くる。そうなったときに、本物か偽物か見極めようとするんだけど、フォロワーがいっぱいいるから本物のクリエイターというわけではないじゃん。最近はちょっと難しくなったみたいですけど、フォロワーやいいねを買う人たちもいるくらいの世の中で。。願わくば、みんな見る目を持って、ちゃんとものづくりをしている人にフォロワーがつくと嬉しいけども、偽物もいっぱいいるんです。

結局、自分が取材したいかを、ある程度、ネットでジャッジしないといけないとしたら、私が探すのは、やっぱりストーリーなわけです。

翠川 ストーリーって、どういうものを指すんですか?

佐久間さん 知りたいのは、なぜこの人が生まれてきて、どんな環境で育って、この作品を作るに至りました、というようなことなんだけど。今、みんなが少しずつ「この消費カルチャーはいかがなものか」って思い始めた中で、お買い物にくっついてくる罪悪感に対してプラスαの買う理由になるかもしれない。。

だから、誰かを取材したいって思うときに、やっぱりそのストーリーに、私はちゃんと共鳴したい。そうすると、重要なのはストーリーがちゃんとあるということなんです。。

翠川 それこそ私は、全然、何もわかっていなかった IDEE の店長時代に、スタッフに対して偉そうに、「いいものは2度おいしい」って言っていたんですよ。

パッと見て、直感的に「すてき!」だと思える要素ってどうしても必要で、そう思えないのにストーリーだけで買うのって、お客さんは使えるお金が限られているなかで難しい。だから、パッと見た綺麗さの後ろにある背景は、形を見るだけでは誰も知り得ないから、販売するときにそっと言い添えてあげる。ものごとを伝えるには、サラッと言えるようになっていることが重要ですよね。

佐久間さん うんうん。

sakumag storeで紹介している FARM CANNING の瓶詰め(上)と、530 GENERAL STOREのステンレス製ストロー(下)

翠川
 Webを見れば、キャプションが長くても読みたい人は見てくれるし。sakumag store でも紹介されている、
FARM CANNING
 の代表がいってたんですけど、「いいことをやっているから買ってくれるじゃ続かないし、安いとかそう思わせないといけない」ということもあると思いつつ。

佐久間さん 意外とアナログなことだと思うんだよね。私はアメリカの本屋でさ、店員さんがオススメの理由を書いているのがすごく大好きで。

翠川 その本屋に行くのは、それを見たいからですもんね。

佐久間さん そうそう。レコード屋とかにも、昔あったじゃん。「これは何々の名盤です」って、あの感じがすごく好きでさ。たとえばKATALOKooo に出店している人たちが、うまく書けるかはわからないけれど、、例えばプロフィールもキャプションも、フォーマットが決まっているようなところがあるじゃん。最近それをもうちょっと面白い感じで書けないかと思って。みんなプロに頼んだりするけど、そこは自分で書くとか。だから読む気がしないじゃん。

翠川 そうですね。KATALOKooo をつかってくれている作家さんには、ぶっちゃけたことを書きすぎだろうっていう人もいて。この前、Kenichi Kondo の近藤健一さんが、 わかりづらい品番のせいで、間違えてお客様に送っちゃって、でもその方がすごく良い方で、「ありがとうございます。でも違うものが届きました」ってメールがきた。「この品番つけたやつ誰だよ! 俺か」みたいなことをインスタに書いていて

佐久間さん そういうの読みたい!

翠川 本当に、それを見ると、この人のことはこれからも好きでいたいって思っちゃいますよね。

佐久間さん そういう風に、これをつくりたい気持ちがどう芽生えたのか書いてあったりしたら、私は読んじゃうし、「この人、面白い」って投げ銭っぽく買っちゃうかも。

翠川 それをみんな当たり前だと思っているから、教えてあげると、「私には特別なことが起きてるの?」って、気がつくんです。それを拾って書いてあげると、全然違うでしょうし……ただ、それを書いても、一人しか見ていないとしたら……。

あれですね……佐久間さんみたいに、書いたからには拡散しないと損だってわけじゃない、というところに行きつかないと。やっぱり、日々の鍛錬ですよね?

佐久間さん 多くの人に見てほしいとは思うけれど、拡散するために作ろうとしたら趣旨が変わってくる。お金も取っていないから好きなことを書く場にしておきたい。そのへんバランスが難しいね。

 

 

PROFILE

佐久間裕美子【ニューヨーク在住ライター】

1996年に渡米し、1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、ミュージシャン(坂本龍一、ビースティ・ボーイズ、マーク・ロンソン)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター、ゲリー・スナイダー)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード、トム・ブラウン)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司、ライアン・マクギンリー、エリザベス・ペイトン)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビューしてきました。著書に「ピンヒールははかない」(幻冬舎)、「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。2013〜2014年にはiPAD マガジンPERSICOPE 主宰。慶應大学卒業。イェール大学修士号を取得。

https://www.yumikosakuma.com

-

Information
sakumag store では、新刊「My Little New York Times」を12月18日に発売し、限定白表紙カバーを予約受付中です。佐久間さんの思想と共に紹介できる親和性のあるアイテムを佐久間さんによる書籍やZineと共に紹介しています。

Text 新井作文店

Photo 岸本咲子 

Place IDEE SHOP Roppongi / IDEE CAFE PARC  

SHARE :
TAGS :